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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)10052号 判決

主文

一  被告は、別紙物件目録記載の土地につき大阪法務局八尾出張所昭和五一年九月一七日受付第二六三五五号所有権移転請求権仮登記、同日受付第二六三五六号根抵当権設定登記及び同日受付第二六三五七号停止条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和四六年一〇月二七日、前所有者である訴外木村嘉彦から別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けた。

2(一)  被告は住宅建築販売等を目的とする株式会社である。

(二)  被告は、本件土地について、大阪法務局八尾出張所昭和五一年九月一七日受付第二六三五五号所有権移転請求権仮登記、同日受付第二六三五六号根抵当権設定登記及び同日受付第二六三五七号停止条件付賃借権設定仮登記(以下これらの登記を「本件各登記」という。)を経由している。

3  よって、原告は被告に対し、所有権に基づき、本件各登記の抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  (所有権喪失の抗弁)

(一) 原告は、昭和四六年一二月一日、訴外中田茂(以下「茂」という。)に対して、本件土地を売却する旨の売買契約を締結した。

(二) 原告は、昭和四六年一二月一日、訴外中田惠美子(以下「惠美子」という。)に対して、本件土地を売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

2  (登記保持権原)

(一) 被告は茂に対し、昭和五一年九月一六日、弁済期を同年一二月一八日、遅延損害金日歩金八銭二厘、として金六〇〇万円を貸し渡した(以下「本件貸金」という。)。

(二)(1) 茂は、昭和五一年九月一六日、被告との間で、本件貸金を担保するために、本件土地を担保として提供する旨の根抵当権設定契約、代物弁済予約及び停止条件付設定契約を締結し(以下これらの契約を「本件各担保設定契約」という。)、被告はこれに基づき本件各登記を了した。

(2) 惠美子は、昭和五一年九月一六日、被告との間で、本件貸金を担保するために、本件土地を担保として提供する旨の本件各担保設定契約を締結し、被告はこれに基づき本件各登記を了した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は否認し、同1(二)の事実は認める。

2  抗弁2の各事実は知らない。

五  再抗弁

1  (通謀虚偽表示―抗弁1(一)に対して)

(一) 仮に本件土地が茂の所有であるとしても、茂は本件土地につき惠美子名義により所有権移転登記を経由することを承知していた。

(二) 惠美子と原告との間で、本件売買契約の効力を巡って争いがあったが、惠美子の死亡後、亡惠美子相続財産と原告との訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)により、真正な登記名義回復を原因として所有権移転登記手続をする、原告は亡惠美子相続財産に対して解決金として金七五万円を支払う旨を約した。

(三) 原告は、本件和解の際、本件土地が亡惠美子相続財産に属するものと信じていた。

2(一)  (通謀虚偽表示―抗弁1(二)に対して)

惠美子と原告との間で本件土地について本件売買契約をする際、いずれも本件土地を売買する意思がないのに、その意思があるもののように仮装することを合意した。

(二)  (和解契約―抗弁1(二)に対して)

再抗弁1(二)と同じ

3  (時効消滅)

(一)(1) 本件貸金の弁済期日である昭和五一年一二月一八日から五年が経過した。

(2) 原告は平成六年四月二一日第四回口頭弁論期日において右時効を援用する。

(3) 原告は平成五年九月二九日被告に到達した書面により、本件土地根抵当権につきその担保すべき元本の確定を請求した。

(4) 右書面到達の日から二週間が経過した。

(二)(1) 本件代物弁済予約の予約完結権は一〇年で時効にかかるところ、本件貸金の弁済期日である昭和五一年一二月一八日から一〇年が経過した。

(2) 原告は平成六年四月二一日第四回口頭弁論期日において右時効を援用する。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)、(二)の各事実は認め、同(三)の事実は知らない。

2  再抗弁2(一)の事実は否認し、同(二)の事実は認める。

3  再抗弁3(一)(1)、(3)、(4)の各事実は認め、同(二)(1)の事実は認める。

七  再々抗弁

1  茂は被告に対し、昭和六二年一〇月二九日金七万円を、また、平成二年一一月六日金二万三〇〇〇円を、それぞれ本件貸金の内入として弁済した(以下「本件内入弁済」という。)。

2  本件土地が当時茂所有または惠美子所有であるとき、惠美子は茂と昭和六一年四月八日離婚しているが、その後も同居しており、夫婦としての実体を有し、しかも茂の本件貸金の連帯保証人でもあるのであるから、本件内入弁済を知っていたものであり、惠美子も本件貸金の時効の援用権を喪失したというべきである。原告は惠美子が時効の援用権を喪失したのち、本件貸金につき抵当権が設定された本件土地を惠美子から承継しているのであるから、同じく時効の援用権を喪失しており、原告は本件貸金の時効の援用はできない。

八  再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁1の事実は知らない。

2  再々抗弁2の主張は争う。すなわち、原告は物上保証人ないし抵当不動産の第三取得者に準じる者として、独自の時効援用権者であり、惠美子が時効の援用権を喪失したか否かとは関係ない。

第三  証拠

本件記録中の証拠関係等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いはない。

二1  そこで抗弁1(所有権喪失)について判断する。まず、本件土地に関する昭和五一年九月一六日の売買の当事者が茂か惠美子であったか判断する。

当事者間に争いのない事実と証拠(甲一、二、四、乙一七、一九、二九三〇)及び弁論の全趣旨によれば、①茂は昭和四六年当時訴外タキナカ商事株式会社(代表者滝中巖、以下「訴外会社」という。)の専務取締役、茂の妻惠美子は監査役であったこと、②訴外会社は本件土地の周辺の開発行為に着手していたところ、右開発区域内に原告代表者が総裁を名乗る右翼政治結社国士会の修養道場が存在しており、原告代表者は開発行為に絡んで、茂に対して本件土地を購入させ、売買代金の名目で報酬金を要求しようとしたが、本件土地を茂名義とせず、惠美子名義で本件土地を購入し、昭和四六年一二月二日所有権移転登記を経由したこと、③惠美子は原告に対し、本件売買契約締結後二か月以内に本件土地に関する代金を数回に渡り支払っていること、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、本件土地の売買代金は専ら惠美子が入手した資金によって支払われたことが認められ、原告と惠美子との間に本件土地の売買契約が締結されたこと(抗弁1(二)の事実)が認められる。

2  当事者間に争いがない事実と証拠(甲一、乙一、二三)及び弁論の全趣旨によれば、①茂は昭和五一年九月二八日被告から金六〇〇万円の融資を受ける際、本件土地に抵当権設定すること、代物弁済予約契約を締結しこれを原因とする所有権移転の仮登記経由することを承諾し、また、惠美子は被告に対して茂に対する本件貸金の連帯保証人になったこと、②惠美子は茂の本件貸金の担保のため本件土地につき、本件各登記を経由したこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、抗弁2(一)及び(二)(2)の各事実を推認することができる。

三1  そこで、再抗弁2(一)(通謀虚偽表示)について判断するに、乙二九、三〇によれば、惠美子が原告代表者個人に対して、本件土地を借りており、担保権を抹消して本件土地を返還する旨を約した旨の右主張に副う記載があるが、他方、乙一九(茂の証人調書)中には右記載は事実に反する内容である旨の記載部分があるほか、甲二及び弁論の全趣旨によれば惠美子と原告との間で、本件売買契約の効力を巡って訴訟となり、五年間に亙って争われたことが認められ、これら事実に照らして、乙二九、三〇はにわかに採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

2  再抗弁2(二)(和解契約)について判断するに、惠美子と原告との間で、本件売買契約の効力を巡る別件訴訟において、惠美子の死亡後、亡惠美子相続財産と原告との本件和解により、原告に対して、真正な登記名義回復を原因として所有権移転登記手続をする旨を約したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、亡惠美子相続財産が本件土地を和解時において原告の所有であることを確認し、原告が所有権を取得したことが認められる。

四  次に、再抗弁3(一)(消滅時効)について判断する。

1  再抗弁3の(一)(1)、(3)、(4)の事実は当事者間に争いがなく、同3の(2)の事実は当裁判所に顕著な事実である。

2  再抗弁3(二)(1)の事実は当事者間に争いがなく、同3(二)(2)の事実は当裁判所に顕著な事実である。

3  当事者間に争いがない事実と前記二2に認定した事実によれば、被告の茂に対する本件貸付けは商人である被告の営業のためにする行為であると認められ、被告の本件貸付は付属的商行為と認められ、本件貸金は商事時効にかかるものというべきである。

五1  再々抗弁1について判断するに、証拠(乙四、八、二〇、二二ないし二五)によれば、茂が被告に対して昭和六二年一〇月二九日金七万円、平成二年一一月六日金二万三〇〇〇円を本件貸金の内入として弁済していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、時効完成後の一部弁済(自認行為)により時効の援用権の喪失をもたらす場合と、意思表示による時効利益の放棄の場合は同じ効果を有するものであるから、前者は後者に準じて考えるべきであり、時効の利益の放棄が放棄者及びその承継人以外の者に対しその効力を生ずるものではないこと(いわゆる相対効)からすれば、自認行為による援用権喪失も相対効しかないと解すべきである。

右認定の事実によると主債務者の茂が本件内入弁済をなし、時効の援用権を喪失したものと認められるが、前記二2に認定の事実のとおり物上保証人でかつ連帯保証人である惠美子が内入れ弁済につき悪意であろうとその時効の援用権は喪失していないものといわざるを得ず、惠美子が時効の利益を喪失していることを前提とする被告の再々抗弁2主張は失当であるから、本件根抵当権の元本確定時に存在した唯一の債務である本件貸金の時効消滅により、根抵当権は附従性により消滅する。

2  次に、本件代物弁済予約及び本件停止条件付賃借権はいかなる根拠で消滅するか検討する。

まず、本件代物弁済予約であるが、その実質は、本来の代物弁済予約ではなく、本件貸金担保のためであり、本件貸金の時効消滅により、本件根抵当権同様、本件代物弁済予約もその附従性により消滅するものと解される。

また、本件停止条件付賃借権は本件根抵当権と併用することにより、後続の短期賃貸借を排除し、その担保価値の保持を図ることに専らの目的があり、あくまで本件根抵当権の補完的な役割と地位にとどまるものであって、本件根抵当権が消滅により、本件停止条件付賃借権はその存在意義を失い、本件根抵当権とともに消滅するものと解される。

六  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢田廣高)

別紙 物件目録〈省略〉

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